音声スピーカ「WAVE」のお披露目は合格点--LINE舛田氏に聞くAI戦略やEC再挑戦

2017年06月19日 09時00分

藤井涼 (編集部)

 LINEは6月15日、同社が1年に一度開催する大規模カンファレンス「LINE CONFERENCE 2017」において、メッセージアプリ「LINE」を大幅にアップデートすることを発表。また、同社が開発したクラウドAIプラットフォーム「Clova」を搭載した初の音声認識スピーカ「WAVE(ウェーブ)」のデモを披露し、秋に1万5000円で発売することを発表した。

 このほか、LINEを“入り口”としてユーザーと店舗をつなぐショッピングサービス「LINEショッピング」や、フードデリバリーサービス「LINEデリマ」を発表。さらに、内閣府が運営するオンライン行政サービス「マイナポータル」とLINEを連携させることを明らかにした。


LINE取締役 CSMOの舛田淳氏

 カンファレンスを終えたばかりのLINE取締役 CSMOの舛田淳氏に、AI事業の勝算や、一度は撤退したものの再び挑戦するフードデリバリーやEC事業、さらに行政との連携などについて聞いた。

WAVEの初お披露目は「合格点」

――カンファレンスを終えて、今の気持ちを聞かせて下さい。

 一言でいうとホッとしました。2つの意味がありまして、まずはClovaとWAVEについてきちんと皆さんにお伝えできたこと。もう1つは、(カンファレンス)会場で実際にデモができたことです。準備をする中でデモをやりたいと私が話したところ、Clovaチームからは「音声デバイスでそんなデモ見たことないですよ」と反対されたのですが、「(イベント会場など)ノイズのある場所でも音声を認識できる自信がある。ここまで進んでいるということを見せたいんだ」と伝えました。結果、少しの時間ですが上手くできましたので、親としてはホッとしたという気持ちですね。

――デモを評価するとしたら何点でしょうか。またリハーサルでも問題なく動作しましたか。

 デモでは最初に反応しませんでしたからね(笑)。ただ、あれも含めて今の音声デバイスだと思うんです。そういう意味では合格点だったのではないでしょうか。音声があまりにも自然に出てくるので、事前に撮ったんじゃないかとも言われましたが、もし本当に撮っていたら本番であんなに私は緊張していません。

 リハーサルでは、音響システムの調整が一番難しかったですね。地声で話せば反応してくれるんですが、マイクを通してとなると環境が異なるので、そのバランスについてClovaチームと音響さんがずっとやりとりしていました。なので、デモが無事に終わって私が後ろに引っ込んだ時には、Clovaチームと抱き合いましたね。


――WAVEの音声は落ち着いた女性のような声ですが、なぜあの音声を選んだのでしょう。また、モデルになった人はいますか。

 あれは電子音声なのですが、もっとフレンドリーなものだったり、ニュースキャスターのような話し方だったり、より電子音のようにしてみたりと、何パターンも試してみて、一番いい距離にある音声を採用しました。多くの方にとって、そばにいても不快ではない、けれど親しみも持てるようにバランスをとりました。

 モデルはいませんが、実はClovaにはプロファイルがあって、何歳で、どういうビジュアルで、趣味は何で、どういうことが口癖で、というものを作ってあるんですね。これを作るにあたっては、「LINEマンガ」の編集チームの力を借りて、マンガの連載を始める時に作者とキャラクター設定をするように、後ろ側ではこういう人なんだという設定を作っています。もしかしたら、WAVEと雑談をしている時に多少そのエッセンスが出るかもしれませんね。

――1万5000円(先行モデルは1万円)という挑戦的な価格を選んだ理由は。(編集部注:競合製品の「HomePod」は349ドル、「Amazon Echo」は180ドル、「Google Home」は129ドル)

 やはり皆さんにお使いいただくためには、価格というハードルを越えていかなければいけませんので、アグレッシブだという認識はありますが、あれくらいの価格がいいんじゃないかと思っています。我々は高級スピーカセットを売るわけではありませんので、まずは多くの方に触れていただいて、お試しいただける価格でなければいけません。

 先行体験を設けるのも、まずは触れていただきたいからです。そしてもう1つは、皆さんにも一緒に育てていただきたい。ハードウェアやアプリのベンダーとだけエコシステムを組むということではなく、ユーザーの皆さんにも参加していただいて、Clovaというものが育っていくプロセスを体験していただきたいと思い、先行販売をしてから正式販売という2段階の形にしました。


――WAVEは低価格で販売しますが、どのようにマネタイズしていくのでしょう。

 たとえば、早期にデバイスの利益率を50%にするといったことは考えていません。デバイスはあくまでもただのタッチポイント、インターフェースだと思っていますので、やはり大本はソフトウェアのところですね。ここに対してどういった価値や広がりを持たせられるかがビジネスモデルのポイントだと思っています。

 我々がメッセンジャーを作った時も、「それでマネタイズができるのか?」と言われていたところを、何とか考えてここまできたという背景があります。ですので、我々の考え方は、まずはプロダクトでいいUX(ユーザー体験)を提供しましょう。そうすることで多くの方がそこで時間を過ごしてくれるし、それを人に勧めてくれるでしょう。その結果、プラットフォームとしてのパイができあがりますので、そこにさまざまな人に参加していただきましょうと。それは企業かもしれないし、開発者かもしれません。もしかしたら、ここにスタンプを生んだように付加価値を持たせられるかもしれません。また、我々の持ついろいろなサービスをClovaにつなげることで新たな収益を上げられるかもしれないですね。

 もう1つ言うと、いま我々はサービス側で収益を上げていますが、この入り口が(スマートフォンから)大きく変わろうとしているんですね。そこが変わった時に、我々が対応できないことが企業の成長として一番悪いシナリオだと思っています。ですので、このタイミングで舵をきって、私もほぼここに集中している。いままさに投資をしているということですね。

――もうWAVEの端末は完成しているのでしょうか。また、製造パートナーはどこなのでしょう。

 ハードウェアは完成していて、いまはソフトウェアの精度を高めているところです。いま私の執務室にはWAVEがゴロゴロいますよ(笑)。メーカーでいうと我々なのですが、製造パートナーについては公開していません。

――販売方法についても教えてください。WAVEの先行モデルは数量限定なのでしょうか。

 販路については、「LINEモバイル」と同じで、最初はオンラインからスタートします。当然その次はオフライン(実店舗)になると思いますが、そこはオンラインでの販売状況を見ながら決めていきます。台数については、いきなり100万台といわれても我々も対応できませんので、すでに生産に入っている分と、追加でどこまでできるかというところですね。

――トヨタやファミリーマートとの連携についても教えてください。

 トヨタさんとの取り組みについて、クルマとAIと聞くと自動運転を思い浮かべるかと思いますが、我々が自動運転をサポートするわけではありません。自動運転はトヨタさんがご自身でいろいろとやられていますので、我々はSDL(スマートデバイスリンク)という、コネクテッドカー向けのオープンプラットフォームに対して、Clovaをつなぎ込ませていただいて、その中でクルマの安全安心も含めて、ボイスコントロールなどをさせていただきます。現時点でお話できることはカンファレンスですべて話してしまいましたので、これ以上はお話できません。ただ、トヨタさんとしてもかなり強い思いを持ってやってくださっています。


SDL(スマートデバイスリンク)とClovaが連携

 ファミマさんについては、我々の持っているClovaの頭脳にあたる「Clova Brain」のインターフェースの技術を、次世代店舗に応用していくという考え方です。音声認識もそうですし、店舗のフロアビジョンを使ったものも含めて、それらをどうやって店舗に入れ込んでいくのか。具体的なことはこれから詰めていくところですね。

――アマゾンやグーグル、アップルなど強力なライバルとの戦いになりますが、LINEのAIや音声デバイスが持つ強みは。過去のインタビューでは、LINEが得意とする「コミュニケーション」、そしてグループのNAVERが培ってきた「検索」の2つを挙げていました。

 コミュニケーションと検索、さらに我々の持つIDとプラットフォームです。LINEのプラットフォームだけでなく、チャットボットやビジネスアカウントのプラットフォームもありますし、LINE IDによるログインの仕組みもすでに整備されています。こうした多種多様なビッグデータをClovaと連携させられることが我々の強みかと思います。

 また、数多くのパートナーがいることも強みです。オンライン事業者であれば、ある種自分たちのやり方だけでパートナーを広げることができますが、トヨタさんやファミマさんなどオフラインのパートナーは少し違いますよね。たとえば、「LINE Pay」で1年近く時間をかけたのも、銀行と接続するところを重要視したからです。いまは30行くらいとつながっていますので、そこはストロングポイントになります。オフラインという世界には参入障壁があって、なかなかすぐには浸透しない。それを1つ1つクリアしているところが他社との違いだと思いますし、強みだと思います。

――逆にLINEの弱みはどこになるのでしょう。

 英語ですね。なので、そこでは勝負せず日本語と韓国語で戦っていく。まさに選択と集中で、広くやるよりは1つのところでグッとやりきったほうがいいだろうと考えています。

――今後のAI事業のロードマップを教えて下さい。

 ようやく皆さんに最初のプロダクトを触っていただけますので、2017年はいろいろなもののプロトタイプが出てくる年になるかなと。そして、さまざまな形でパートナーのプロダクトが一気に出てくるのが2018年だと思います。そこから2019年くらいまでに、多くのご家庭にこのスマートデバイスが必須になる環境を作っていきたいですね。ただし、計画通り進めるというよりは、できるだけ前倒しで進めたいですね。

「ニュース」から「ポータル」に自然にシフトできる

――続いて、LINEアプリの大幅刷新について教えてください。2月に「ニュースタブ」を新設してからわずか4カ月で、このタブを「ポータルタブ」へと刷新することを発表しましたが、その理由は。

 我々が進めている「スマートポータル戦略」というのは、LINEをポータルにしていくことなんですが、これまでユーザーの皆さんにそれをお伝えするゲートウェイになるものがなかったんですね。そのための第1ステップとしてニュースタブを作りましたが、これが皆さんに受け入れてもらえたので、第2ステップということでポータルタブにすると。「LINE NEWS」では決して報道機関が発信しているものだけをニュースと考えていません。基本的に人々が知りたいものはすべてニュースです、コンテンツですという定義をしているので、自然な形でニュースからポータルへシフトできるだろうと。


「ニュースタブ」を「ポータルタブ」に刷新

 ポータルタブでは、上部のパネルに天気や交通情報などが表示され、下部にニュースやコンテンツなどが並びます。ただ、単純に各サービスへの導線を設けるだけでは違うよねと。ユーザーにとって意味のあるものにしないといけないので、動画やマンガ、音楽、ショッピングなどをコンテンツ化していく。そこで滞在したいと思うような、面白いものにしていくことが我々のチャレンジですね。

――LINEのファミリーサービスなどにアクセスできる「モアタブ」も「ウォレットタブ」へと刷新するのはなぜでしょうか。

 これまでモアタブには、設定メニューや各サービスへの導線など、いろいろなものがすべて入っていたのですが、ここは整理をしないといけないとずっと思っていました。その中でポータルタブを設けて、そのほかのタブの役割をどうするべきかと考えた時に、おかげさまでLINE Payが伸びていますので、ここは決済やポイント、ショップカードなどを中心にした、購買行動をつかさどるお財布のようなタブにした方がいいのではないかと考えました。


「モアタブ」は「ウォレットタブ」へ刷新する

――では、モアタブの扱いは今後どうなるのでしょう。また、それぞれのタブが実装される時期は。

 モアタブ内のコンテンツについては、ウォレットタブで持つものと、ポータルタブで持つものにそれぞれ分けていくことになりますね。タブはまさに開発中でして、実装は夏以降になります。その時に、すべてのパーツが揃っているかは分かりませんが、恐らく同時に実装されると思います。

「フードデリバリー」と「ショッピング」に再挑戦

――フードデリバリーサービス「LINE デリマ」とショッピングサービス「LINE ショッピング」についても教えてください。LINEでは過去に、CtoCフリマアプリ「LINE MALL」やフードデリバリーサービス「LINE WOW」を展開して撤退しています。再挑戦ということになりますが勝算は。

 まず、フードデリバリーから説明すると、LINE WOWは渋谷区など都心から提供を開始して、多くの方にご注文いただき、リピーターも増えていたのですが、1つ問題がありました。それは、局所的なサービスはどうしてもお店を増やすのに時間がかかることです。LINEというサービスは全国で使っていただいていますので、我々の成長スピードとユーザーニーズに応えきれないということを考えると、このまま小さく時間をかけてやっていくのはよくないんじゃないかと。フードデリバリーやリアルタイムなオンデマンドのニーズがあること、またLINE上から頼んでくださることは分かりました。ただ、これを全国でやらないといけない。そして加盟店も持たないといけないと強く思いまして、LINE WOWは閉じました。


フードデリバリーサービス「LINE デリマ」

 ただ、WOWを閉じる時から今のデリマの姿が見えていまして、その適切なパートナーは当然、出前館でした。宅配デリバリーで圧倒的ナンバーワンですので、彼らの筆頭株主になりパートナーシップを進めていく中で、どのようなデリバリー体験がいいのかと考えて生まれたのがLINE デリマです。また、出前館はピザや寿司など、そもそも加盟店側にデリバリーの機能があるものをメインとしてきましたが、それだけだと個店には対応できません。でも、美味しい個店がたくさんあるじゃないかということで始めるのが、シェアリングデリバリーです。出前館と朝日新聞の配達所であるASAが組んで届けるというもので、LINEもバックアップしながらカバレッジを広げようと思っています。そして第2ステップでは、フードに加えて生鮮食品や日用品、薬などもオンデマンドで届けたいと思っています。

 LINE ショッピングについては、過去にLINE MALLやフラッシュセールなどをやらせていただいて、こちらも伸びてはいたものの、LINEが期待する伸び方ではなく、戦い方でも満足できなかったというのは正直あります。ただ、当時はリソースを一気にかけられるタイミングではなかったので、ほかのところに集中しようということで閉じることにしました。

 それからもずっと、お店や小売りとLINEはどういう関係であるべきかを考えていました。たとえば、京都のお茶屋さんなど、LINE@をうまく使って売上げが何%も上がりましたという事例がどんどん出てきていたので、我々としてもう一度コマースという領域で何ができるのか整理してみようと。そうすると、期待されているのは本当の意味でのゲートウェイなのではないかと思ったのです。

 社会背景でいうと、これまで巨大モールの中でコマースの皆さんは頑張ってきたけれど、出店する店舗が増えすぎて、集客が難しくなったので広告商品を買わないといけない。そして広告を出して集客したけれど、その結果顧客のデータは自分のところにはあまり残らない。商品が売れるか売れないかも、ポイントをどれだけ多くつけるかで決まってくる。それは、あまり自決的ではないコマース環境だと思うんです。


「LINE ショッピング」

 そのため、最近は皆さんが自前でオンラインショップを持ち始めていますが、そこには何らかの形で優位性がなければいけない。では、そこは我々が担えるんじゃないかということで、LINE ショッピングというゲートウェイサービスをやってみようと。ユーザーにとっては、決まったオンラインショップで水や服を買うという行動は変わりません。ただ、我々のゲートウェイを通っていただけると得をする。たとえば、「LINEポイント」も貯まるし、購入先のショップポイントも貯まるので二重にお得です。

 また、お店からするとユーザーはLINE経由で来てくれるし、決済は自分たち側でしてもらえるので、顧客情報は自社で持つことができる。なおかつ、自社の公式LINEアカウントもフォローしてもらえる構造になっていますので、一度来てくれたユーザーが常連客になる確率が非常に高くなります。なので、モールとLINE ショッピングは考え方がだいぶ違いますね。

――LINEユーザーからすると、LINE ショッピング経由でアクセスしたオンラインショップでの支払いにLINE Payを使いたいのではないでしょうか。

 現状はLINE Payに対応する計画はありません。ただ、ユーザーの皆さんの動きと店舗の反応をみながら、たとえばLINEポイントで決済を可能にするなど、よりシームレスになるような取り組みはできればと考えています。

――LINE WOWやLINE MALLでは、限られた一部のユーザーに特別な体験を提供することを重視していましたが、LINE デリマやLINE ショッピングでは、より多くのユーザーやパートナーにLINEというプラットフォームを開放する印象を受けます。

 その認識で正しいと思います。これまでは我々自身でグッと作り続けてきましたが、もう少し我々のプラットフォームを広げて、利用していただきましょうというのがデリマやショッピングですね。さまざまなものとつながっていくことに価値がある。それが我々の強さになるんだという考え方で、いまはどんどん広げていく思想でやっています。

LINEで行政サービスの申請が可能に

――内閣府と連携し、LINEと「マイナポータル」を組み合わせた子育て関連サービスを提供することを発表しました。どのような経緯で実現したのでしょう。


LINEと「マイナポータル」が連携

 もともと我々は、首相官邸や地方自治体などに公式アカウントをご利用いただいていました。ただ、それはメルマガのような役割だったので、もう少し深い取り組みをしましょうということで、次に渋谷区や福岡市とパートナーシップを組みました。そこで非常にいい成果が出ていて、特に福岡市では、市民とのつながりで最もLINEが活用されていると聞いています。

 その流れで、さらに我々のものをお使いいただけないかと行政の方とお話をする中で、マイナポータルと連携することになりました。子育ての支援は政策においても重要ですが、どうやってこの悩みを持っている人やサポートが必要な人に届けるのか。そう考えた時に、そうした人に最もリーチしていたのが私たちだったということですね。

――子育て支援以外では、どのような領域で連携するのでしょうか。

 我々としては、いろいろな可能性を考えていきたいと思っています。これはマイナポータルとは関係ないお話ですが、いま諸外国をみると、スマートフォンからいろいろな行政の手続きが当たり前にできるようになってきています。一方で、日本はそこが遅れているという課題が間違いなく存在しますので、そこに対して我々が何かしらソリューションとして提示できるのであれば素晴らしいことだと思っています。手続きをするたびに、役所に書類をもらいにいくのを繰り返すのは不毛だなと。そういうことを簡単にして、その時間をほかのことに使ってもらった方が当然いいと思いますので、我々がサポートできるのであればどんどんやりたいです。ただ、そのためには安心、安全、信頼、責任なども求められると思います。

――行政とLINEの連携について、個人情報は安全なのかといったネガティブな意見もあります。

 そこはすごくシンプルでして、LINEが提供するコネクトの設計上、我々にはつながり先のデータが送られてこない仕様になっていますので、私ども経由でセキュリティのリスクが発生することはありえません。それに、マイナポータルとつながるだけでマイナンバー自体とつながるわけではありませんので、安心してご利用いただければと思います。