カンボジアの若者に流行る「Facebookで小売りビジネス」

 Facebookでカンボジア人と「友だち」になると、その更新回数の多さや「いいね!」の速さに驚かされる。常にFacebookを見ているのではないかと思うほどだ。

 カンボジアでは、若者を中心にFacebook上でのスモールビジネスを始める人が増えている。海外から仕入れた洋服や化粧品などをFacebookで紹介し販売する、いわば「簡易ネット通販」のようなものが多く、そのページをフォローすると商品を写真つきで紹介する投稿が次から次へと流れてくる。

洗濯屋でFacebookを見て時間をつぶす親子
洗濯屋でFacebookを見て時間をつぶす親子

SNS上のビジネス規制がなく、誰でも気軽に起業

 今のところ、カンボジアではSNS上のビジネス規制がないため、商業登録義務も税金も発生せず、誰でも気軽にFacebookを使った起業ができる。

 国内大手リサーチ会社によると、カンボジアのネットユーザーは全体の34%で、うち9割以上がFacebookを利用している。「Google検索は知らなくてもFacebookの操作はわかる」という人もいるほどで、もっとも身近なメディアがFacebookであると言っても過言ではない。

手軽な起業手段としてのFacebook

 そもそもカンボジア人は「個人ビジネス志向」が強い。以前、現地の日本語誌編集部で働いていた頃、誌面に「カンボジア人の若者に将来の夢を聞く」という連載企画があった。その取材をしていて驚いたのは、実に9割に近い確率で「社長」や「自分のお店を持つ」と言われたことだ。上場企業の社員でもサッカー選手でもなく、それぞれが自らのビジネスを目指している。

 実際、小学校の先生をしながら花屋を営んでいたり、会社員をしながら携帯電話の販売店を持っていたりする人もいる。現在の職業云々に限らず、個人ビジネスをする・目指すということは、カンボジア人にとって至極当たり前の感覚なのであろう。Facebookはその「夢」を叶えるひとつの手段として、若者を中心に浸透し始めているのかもしれない。

 実際にFacebook上で衣類や服飾雑貨を販売している、プノンペン在住のパニャさん(男性・20歳)に聞いてみた。

パニャさんの店「Divine Outlet」
パニャさんの店「Divine Outlet

 「Facebookでの起業は1年前です。販売商品はほとんどがタイのもので、自分で買い付けに行っています。売り上げは1カ月だいたい数百ドル。顧客の6割がプノンペンからで、残りの4割が地方です。デリバリーは近くなら私や家族が直接行い、遠方には長距離バスで送ります。支払いはすべて前払いで、Wing 、現金払い、銀行振込などさまざまな方法に対応しています。すべて前払いにしているので、金銭トラブルは今のところありません」

やっぱりバーチャルよりリアルがいい?

 個人レベルだけでなく、国内企業による総合通販サイト がオープンするなど、カンボジアのオンラインビジネスは盛り上がりを見せているようだが、実際は、まだまだといったところのようだ。パニャさんは、ネット起業の後に実店舗もオープンさせており、Facebookビジネスと比べると「実店舗のほうが魅力がある」そうだ。

 カンボジアにおけるEコマースがなかなか浸透しない理由は、銀行口座の保有率の低さからネット決済が難しいこと、そして輸送網・手段の貧弱さもあるだろう。国内輸送において、ドアツードアサービスの宅配会社もあることはあるが、一般レベルでは浸透していない。

 今のところその分野で市民権を得ているのが長距離バスだ。長距離バスは、毎日全国を運行することを強みに、荷物の輸送サービスも行っている。書類ひとつから大きな箱物まで運んでくれるが、届けるのはバスステーションまでで、荷物は個人がステーションまで取りに行くという仕様だ。

 小さいものなら1.25ドル程度からと安さがウリだが、煩雑に扱われて壊れたり、紛失したりという危険性は常につきまとう。また、商品のサイズやクオリティを不安視する人も多く、「実際のものを見ないと信用できない」というバーチャルに対する不信感が根強いことも影響している。

Facebookは「宣伝ツール」

 Facebookを利用した小売で成功しているのは、主に女性向けファッションを扱っている「Little Fashion」だ。Facebookのいいね数は110万以上で、きれいな女性が商品アイテムを身につけた、魅力的な写真や動画が次々と流れてくる。しかし、実際の購入においては、Faceboookを見て興味を示した顧客が店舗に行き、商品を吟味してから店で買うというのが主流だそうだ。

「Little Fashion」のサイト
Little Fashion」のサイト

 前述のパニャさんも「Facebookの良さは多くの人に私の店を知ってもらえること。Facebookをきっかけにお店に来てくれることもある」と語る。今のところ、Facebookはあくまで実店舗の宣伝ツールという側面が大きいと言えるだろう。とはいえ、大手リサーチ会社TNSカンボジアは「Facebookを利用した小売ビジネスはこれからも拡大していく」という見解を示していると、現地英字紙プノンペンポストが報じている。

 今後はSNSに対する法規制ができるかもしれないし、そうなれば自然淘汰されるネットショップも出てくるはず。しかし、今や「国民的メディア」であるFacebookの地位は不動であり、新たなビジネスツールとして欠かせないものだ。この流れが止まることはないだろう。

(編集協力:岡徳之)

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